今回は患者さんから届いた一通の手紙をご紹介させて頂きます。
私は大学病院の救命救急センターで働いていますので、地域の中で最も重症な患者を受け入れています。
救命救急センターのスタッフは、毎日のように患者に張り付いて治療をしていくので、各患者さんのことはよく覚えています。
しかし、多くの患者さんは意識障害の状態か、麻酔で眠っている状態ですので、患者さん自身は救命救急センターのICUで過ごした日々を覚えていない方がほとんどです。
私が元気になった患者さんのところへ挨拶に行っても、あなたは誰?みたいな反応をされることもしばしばあります。笑
それでも我々のことを感謝してくれる患者さんやその家族がいます。
今回はそんな患者さんからのお手紙をご紹介させて頂きます。
私の外勤先
私は大学病院で働いていますが、皆さんが思うほど給料は高くありません。
そのため、大学病院の医師は週に1~2回程度は大学病院以外の病院で働いて、アルバイト(外勤)をしています。
地方病院にとっては、医師不足のため大学病院からの医師派遣は助かりますし、私のような大学病院の医師は生活費確保のために給料を頂けることはありがたいことですし、Win-Winの関係性で成り立っています。
私は毎週木曜日にK病院で勤務し、昼間は手術のトレーニング、夜間は当直をして救急患者の対応や病棟管理を担当していました。
K病院は、人徳のある理事長、素晴らしい外科医の先生、やる気のあるスタッフの方々と一緒に働ける最高の病院でした。
急変の経過
2014年K病院で私はいつも通り勤務していました。
日中の手術が終わり、夜間になって私の当直ピッチが突然鳴りました。
看護師さんからの電話で『病棟で下肢静脈瘤術後の患者さんが急変しています。すぐに来てください。』
当時はまだ若手であった私ですが、福岡大学病院救命救急センターで働いていたおかげで急変患者への対応はトレーニングを積んでいました。
病棟へ駆けつけたところ、その患者さんは意識がなく、心肺停止状態。
心臓が止まっている最悪の状態です。
処置が遅れれば、数分で脳の障害が残り、10分足らずで救命の確率はなくなります。
まさに1分1秒を争う超緊急の状況です。
私が患者の元を訪れた際には、病棟看護師によって、すでに胸骨圧迫の初期対応がされていました。
私は心臓を戻すための劇薬アドレナリンを使用したり、気管挿管をして肺への空気の通り道を確保したり、心肺蘇生処置を施しました。
12分間の心肺停止状態の後、我々の治療が奏功して、何とか心臓が再度動き出しました。
しかし、心臓が戻ったと安心したのも束の間、2分後に再び心肺停止状態となりました。
再度、心肺蘇生の処置を行って、約10分後に再び心臓が動き出しました。
その後もいつ心臓が止まってもおかしくない不安定な状態が続きました。
高容量の昇圧剤を流しながら、急いでK病院から福岡大学病院救命救急センターへ患者を搬送して、引き続き管理を継続しました。
精査の結果、診断は”肺血栓塞栓症“。
病歴を詳しく聞くと、術後しばらく安静にしていて、初めてトイレへ向かった直後の急変だったようです。
下肢に血栓ができて、立ち上がった際に下肢から肺に血栓が飛んだことで、心肺停止に至ったと考えられます。
一般的には”エコノミー症候群“の名前で知られている病気です。
福大救命では、血栓を溶かす薬剤の投与に加えて、人工呼吸管理などのICU管理によって、肺の血栓は溶けて、状態は安定化し、K病院へ戻りました。
その後は、無事に退院し、自宅での生活をしているとお聞きしました。
K病院の方々と共に戦った蘇生術がなければ、患者さんは絶対に命は助からなかったと思います。
2014年に起きたK病院での出来事でした。
お手紙
それから年月が経ち、2020年以降はコロナ禍で大変な状況となり、ECMOを専門としていた私は何度かテレビに出演させて頂きました。
そんな2023年の始めに先ほどの患者さんとその娘さんからこんなお手紙を頂きました。
K病院での急変対応は、救命医の私にとっては何気ない日常でした。
しかし、全ての患者さんにとっては、かけがえのないたった一つの命です。
感謝されることの少ない我々ですが、このような手紙を頂けることは最高の喜びです。
救命センターは決して楽な労働環境ではありません。
仕事量は多く、責任も重く、”もうやめてやる”と思ったことは何度もありました。
でも、こんな嬉しい手紙をもらったら、救命医をやめられないですね。
今までの疲れが吹っ飛んで、また頑張ろうと思いました。
これからも患者さんとご家族の幸せな日々を願っています。
コメント
数年前に福大ICUにお世話になりました。
お手紙を書こうか…異動でもうわかる方はいないかな…と悩んでそのままにしてましたが、近々書いてみようと思います。
お手紙を催促するような記事になってしまいました。もしお時間あるようでしたら、ぜひお願いします。間違いなく、我々のやる気はアップします。